以前アイドリッシュセブンの対比構造についてつらつらと書きました。今回はそこから派生してアイドリッシュセブンにおける「家族」にクローズアップした文章を書こうと思っています。
対比の上手さこそアイドリッシュセブンの真骨頂 - 歌は道連れ夜は光
アイドリッシュセブンのキャラクターは皆、どこか人間臭くて、ちゃんと彼らの人生の重みを感じられる生々しさがあります。その生々しさの由来は、家族との関係をはじめとした生まれ育った環境の解像度の高さにあるのではないでしょうか。アイドリッシュセブンにおける家族は、彼らをつなぐ絆として、あるいは彼らを縛る呪いとして機能しています。
※メインストーリー6部までを踏まえた文章ですので、ネタバレを避けたい方はブラウザバックをオススメします
対比構造においても、家族というテーマにおいても、中心にいるのが七瀬双子です。ふたりが双子であるということ自体は初期段階で明記されたが、その詳細やつぶさな心情が語られるまでにはだいぶ長い時間がかかりました。少しずつ明かされていく過去を見ていくと、彼らの現在がほとんど彼らの拗れた思いによるものであることが透けてきます。陸くんの生粋の弟気質。病気を知られることや、自分が置いていかれることに対する異常なほどの怯え。ステージへの強い憧れ。大好きな兄と同じことができなかったこと、その兄に置いていかれたことに起因するものばかりです。天くんの場合も同じ。彼のプロ意識や、人間離れした奉仕精神。年齢の割に大人びていて、なおかつ大人びていることすら感じさせない妙な貫禄。アイドルという仕事に対する熱量。これらは全て、弟のスーパーアイドルであり続けた七瀬天が積み上げてきたものの成果なのだろうと思います。ふたりともショーが好きなのも、家業に由来するものでしょう。こういった具合に、情報が明かされれば明かされるほど、彼らの性格や言動に説得力が増し、性質や発言がつながっていくところ、リアルな物語だなと感じます。
MEZZO"も家族の呪いが色濃いコンビだと思います。家族を取り戻すためにアイドルになった環くん、アイドルになることで家から逃げ出した壮五くん。家族との確執という意味では共通点があるものの、自分で選んで家を捨てた壮五くんと、不条理に大切な家族と引き離された環くんの境遇はほぼ真逆だといえます。父親に対して複雑な感情を抱いているところも似通っているけれど、一方で最終的には認めてほしいとどこかで思っている壮五くんと、父親のことを諦めている環くんの間にはやはり大きな隔たりがあるように見えます。にも関わらず、2人は互いに自分たちの孤独を重ね合わせてシンパシーを感じている。環くんは壮五くんに喪ったお母さんを感じているし、壮五くんは実の父にできなかったことを取り返すかのように環くんの父性に甘えてる印象があります。寮がなくなるかもしれないとなったとき、MEZZO"はかなり動揺して、拒絶反応を示していました。擬似家族としてのIDOLiSH7に執着が強いのも、彼らの生い立ちを思えば無理もないことです。
家族や生い立ちを詳細に描くことでキャラクターに説得力を持たせるのは珍しいことではないと思いますが、アイドリッシュセブンのすごいところはその生い立ちが幅広いことです。親から愛ではなく支配を受けて育った人、親を亡くして愛や関心に飢えている人、両親からは愛を注がれてきたけれども兄弟に強いコンプレックスを抱いている人、そしてたくさん愛されて大切に育てられたことで自分を見失っている人。過干渉も、没干渉も、見事に描ききる様は圧巻です。そして、彼らはそうした自分たちの過去を抱えたまま生きています。向き合おうとしたり、目を背けたり、思いがけないところで直面させられたり。王家や財閥の子供、有名人の隠し子といった共感しづらい前提が多いのに、彼らの葛藤や勇気に惹き込まれるのは、そこに描き出される感情が生々しくて、自分たちの人生と共鳴するからだと思うのです。親を恨みたい。親に感謝している。兄弟のようになりたかった。家族のようにはなりたくない。こんな家族がいてほしかった。多かれ少なかれ、人はこうした矛盾や渇望を抱えて生きているものだと思います。誰もが生まれ育った環境に影響されて構成されていて、だからこそアイドリッシュセブンに「リアル」を感じる。
そしてそのリアルの先に提示されるアイドリッシュセブンの答えに、カタルシスを感じるのです。
天くんは陸くんをライバルとして認めて、それをきちんと伝えます。陸くんも誤解をしていたことを謝って、大好きだと伝える。そして、幼いころの夢を一瞬だけ叶えて、それを手放すことを選びます。壮五くんは環くんと向き合うことで、自分が父親から受けていた支配にも愛はあったのかもしれないと気がついて、少し前に進みます。三月くんは努力と実績を積み重ねて、「自分より出来のいい弟」を受け入れられるようになりました。一織くんは、兄に嫌われるのではないかという不安をきちんと対話することで乗り越え、自分の夢をひとつ叶えます。八乙女事務所を離れた楽くんは父親のことを少し認められるようになるし、ナギくんはセト殿下とオセロをするようになるし、大和さんは自分が千葉志津雄の子供であることを受け入れて、父親の代表作のリメイクを引き受けます。
作中では、他にも彼らが各々のやり方で家族との関係性を再構築していく様子が多く描かれています。それと連動して、家族と重ね合わせてぎくしゃくしていた人間関係が、あるいは家族との確執から消極的になっていた気持ちが、前に進み始める様子も描かれています。どんな関係性、距離感が正解ということもないけれど、時が経ってからでも取り戻せるものや、すっぱりと切り離せるものも確かにあるんだよと教えてくれるアイドリッシュセブン。なんてあたたかい物語なんでしょうか。
アイドリッシュセブンはフィクションです。リアルな描写が評価されることが多いけれど、フィクションならではの仕掛けや設定を上手く使うことにも長けたコンテンツだと思っています*1。5部と6部において、現在を縛り、手繰り寄せるきっかけとなってきた、物語の核となる過去、双子とゼロの物語が優しく紐解かれました。ひとつの結末を迎えたアイドリッシュセブンが、これからどう展開していくのか。アイドルたちが絆や呪いと共存しながら、どんな未来を掴み取るのか。楽しみでなりません。