対比の上手さこそアイドリッシュセブンの真骨頂

アイドリッシュセブンというコンテンツには様々な魅力がありますが、その中でも絶対に外せないのが「シナリオの面白さ」だと思います。巷では鬱展開だの、メンタル育成ゲームだのと言われがちなシナリオですが(それを否定もしませんが)、それでも多くの人が魅了されるのは、ひとえに完成度の高い綺麗な構成によるものなのではないでしょうか。ということで私が大好きなアイドリッシュセブンの対比表現を紹介するぜ!

IDOLiSH7とTRIGGER

アイドリッシュセブンのシナリオは、破竹の勢いで人気を伸ばし続けるTRIGGERと、それに立ち向かうIDOLiSH7の対立を描くところから始まります。皆さんご存知のように、この2グループのセンターである九条天と七瀬陸は生き別れの双子なのですが、この2人の対比が本当に良い。2人は二卵性であまり似ていないそうですが、キャラデザとしてはかなり意図的に対にされている印象があります。鮮やかな赤と淡い桃色という色味は似ているのに真逆の印象を与えるカラーリングや、左右反転しているだけでほとんど同じ髪型、それからそっくりな瞳の形。言わずもがなですが、天と陸という名前も綺麗に対になっていますよね。双子であるにも関わらず、彼らの中では兄/弟というポジションがとてもはっきりしています。それが性格に大きく影響しているため、性格面でも正反対な2人になっているのです。責任感が強くて面倒見が良い、ファンや大切な人には己の全てを捧げて"与える"九条天。対して、「甘ったれの弟気質」で、して欲しいことを伝えるのが得意、人の感情を受け取るのが上手な"求める"七瀬陸。我らが敏腕プロデューサー和泉一織の言葉をお借りしますと「センター次第でグループの路線は決まる」のですが、この場合も例に漏れず、2人の特性はグループのカラーにそのまま反映されています。ひたむきに頑張る姿で応援したい!と思わせるIDOLiSH7と、高いプロ意識でいつでも最上級の非日常を届けるTRIGGER。ファンの応援や愛情を求めて歌うIDOLiSH7のメンバーと、パフォーマーとしての姿勢を崩さないTRIGGERのメンバー。彼らのこうした魅力は、それぞれこの双子に起因するものだと言っても良いのではないでしょうか。

歌詞で読むグループの違い

褪せない GENERATiON を君と

デビュー曲である「MONSTER GENERATiON」のサビの部分で既にIDOLiSH7のスタンスがはっきり歌われています。オレたちが時代を作るぞ!でも、新しい時代を見せてあげる、でもなく、君と時代を作りたいんだ、というメッセージ。

醒めない夢を一緒に

対するTRIGGERも「SECRET NIGHT」で一緒に、と歌っています。しかし、この「一緒に」とIDOLiSH7の「君と」はニュアンスに大きく差があると思うんですね。

なんにもない日も自然とそこにいる

「ナナツイロRealize」のこの歌詞で歌われているように、IDOLiSH7はなんにもない日常にいてくれるアイドルなんだと思います。毎日毎日、代わり映えのしない生活が続いて、特別何か嫌なことがあるってわけじゃないけど、ちょっとしんどかったり、疲れてきたりする。そんな日常の中で、ほっと安心したり、逆にテンション上げたり、そういうきっかけになってくれるのがIDOLiSH7というアイドルなんだと思うんです。もちろん、実際にIDOLiSH7に会えるのはライブの時だけで、それは紛れもない非日常なのですが、シナリオやアニメの中では日常の中で愛されるIDOLiSH7の方が多く描かれているような印象があります。学校の友達とIDOLiSH7の話で盛り上がったり、残業しながらウェブ番組を見たり、家族でバラエティ番組を見たり、仕事帰りにコンビニで特典のクリアファイルや缶バッジを集めたり。「なんにもない日も自然とそこに」いてくれて、私たちの日常をちょっぴり鮮やかにしてくれる魅力が彼らにはあります。

隣あえる希望になりたい

「THE POLiCY」のこの歌詞もそうですよね。私はこの曲をIDOLiSH7そのものだと思っていてブログ1本分くらい語りたいことがあるのですがそれは一旦やめておいて。IDOLiSH7の目指すところを表した言葉としてシンプルで的確ですごく好きな歌詞です。

どんな魔法なのかReally  知りたいんだろ?

こちらはTRIGGERのデビュー曲「DIAMOND FUSION」の歌詞です。ここまでIDOLiSH7のカラーについて長々述べましたが、それとは対照的に、魔法をかけて夢を見せて、日常から連れ出してくれるのがTRIGGERなんだと思うんです。俗なことを全部忘れさせてくれる高潔で完璧なアイドル。TRIGGERは高級品だと姉鷺さんが言っていましたが、まさにそれですね。いつでもパーフェクトにキラキラしていてくれる彼らだから、安心して身も心も預けて夢を見ることができる。彼らのそういう価値が裏目に出たのが十さんのスキャンダルだったのかなと思います。あれはTRIGGERのコンセプト的には致命傷に近いスキャンダルだったんですよね。それを乗り越えてここまで戻ってきた彼らは本当にすごいと思います。

つれない顔は No thanks だから笑わせたい

「SECRET NIGHT」のサビ部分、「醒めない夢を一緒に」を先ほど引用しましたが、あの部分がTRIGGERのスタンスそのもので最高なのは当然として、今回引用したこの部分もすごくTRIGGERのエンターテイナーとしての姿勢が表れていると思うんですね。どんな日常を送っていようとも、今この場所では絶対楽しませて笑わせて見せる、というプロ意識を感じさせられるフレーズです。「DAYBREAK INTERLUDE」の「君が笑うその瞬間 オレがオレでいられるんだ」にも通ずるものがありますね。このように、IDOLiSH7とTRIGGERが真逆の魅力を持つグループだからこそ、アイドリッシュセブンというコンテンツはここまで面白いものになっているんだと思います。

TRIGGERとŹOOĻ

ヒールポジションとして3部で登場したグループ、ŹOOĻ。彼らが敵対視しているのは主人公グループのIDOLiSH7ではなく、そのライバルであるTRIGGERである、というのはアイドリッシュセブンという作品の面白さがよく見える構造だと思います。IDOLiSH7の成長過程に立ち塞がるライバルとしてTRIGGER、Re:vale、ŹOOĻが出てきて、次々打ち負かしていくという構造ではなく、ブラホワで一旦は勝負がついたとしても関係は続いていくという、非常にリアルな相関図になっているんですね。そして、このŹOOĻとTRIGGERも綺麗な対比関係にあります。先述したIDOLiSH7とTRIGGERの関係では、軸にあるのは七瀬陸と九条天でした。今回軸になるのは、九条天と亥清悠。この2人は、どちらも九条鷹匡の息がかかったアイドルです。しかし、皆様ご存知の通り、悠くんは養子にはしてもらえず、「失敗作」と呼ばれて見捨てられています。一方の天くんは、養子として迎えられ、鷹匡の理想を叶える唯一のアイドルとして絶大な信頼を寄せられています。悠くんが夢見たこと全てを、残酷なまでに手に入れているのが九条天なのです。IDOLiSH7がありのままの彼らを売り出すスタイルなのに対して、キャラクターを立てて路線を定めて売り出しているのがTRIGGERですが、ŹOOĻのプロモーションは圧倒的にTRIGGER寄りの方向性で行われています。「PLACES」や「Poisonous Gangster」、「Up to the nine」の歌詞で出てくる塔というモチーフに象徴されるように、人工的に生み出された作品であること、それがTRIGGERとŹOOĻの共通点だと思います。登場時のプロモーションの仕方があまりにも近いので、悠くんの事情を抜きにしても、TRIGGERをライバル視するのは当然なんですね。打倒TRIGGERを掲げていたŹOOĻが、紆余曲折を経て彼らなりのカラーを開拓しようと違う路線を模索していくようになるという流れ、美しいなと思います。

九条鷹匡とアイドルたち

ŹOOĻ以外のアイドルは皆数字が名前に含まれているため、「ゼロ」からはじまったアイドルで、「ゼロ」に縛られていると解釈できます。あまりにストーリーにボリュームがあるので忘れがちですが、アイドリッシュセブンのストーリーの根幹には「ゼロ」というアイドルが色濃く影響しています。未だ正体が明かされないゼロ本人に替わって、今の時間軸にゼロを持ち込んでいるのが、ゼロのプロデューサーであった九条鷹匡です。彼はゼロに替わるアイドルを探す過程で多くのアイドルの「きっかけ」を生み出しています。例えば、Re:valeの場合、九条鷹匡の干渉によって解散を余儀なくされ、それがきっかけで百さんがアイドルになります。鷹匡のスカウトによってアイドルになった天くん、悠くん、それから天くんが家を出たことによってアイドルになった陸くんは言うまでもないですね。私は逢坂聡が亡くなった過程にも鷹匡が干渉していると思っているので、もしこの見解が正しければ逢坂壮五のきっかけもまた、鷹匡に由来するものになります。

小鳥遊事務所

IDOLiSH7の所属事務所は小鳥遊事務所。この「小鳥遊」はいわゆる熟字訓で、鷹のいないところでは小鳥が安心して遊べるから、たかなし=小鳥遊と読ませるというシャレの利いたものです。九条鷹匡の名前にはダイレクトに「鷹」が含まれているため、この名前には明確な対比意図があると考えられます。つまり、鷹匡のいない場所、鷹匡から逃げた結果行きつく場所の象徴としての小鳥遊事務所なんですね。IDOLiSH7のメンバーたちの背景に相応しいネーミングだと思います。

余談ですが、小鳥遊家の二人の白っぽい髪の毛に赤い目のカラーリングは恐らくうさぎが元になっています。鷹はうさぎの天敵でもありますし、きなこを飼っているという点でも、うさぎが意識されていると思います。小鳥遊事務所を立ち上げた小鳥遊音晴さんは元々は月雲プロダクションの所属です。月雲了さんは暗い夜空のような髪色に月そっくりの黄色い瞳で、こちらもかなり月を意識したデザインになっていますね。月にはうさぎが棲んでいるとよく言いますが、月から飛び出した音晴さんがうさぎというモチーフで表現されているの、完成度が高くて好きです。

和泉一織というプロデューサー

何万回も言われていることではありますが、鷹匡と和泉一織の対比も頻繁に匂わされています。2人とも、1人のアイドルの魅力に取り憑かれ、そのアイドルをスーパーアイドルにすることを夢見るプロデューサーであり、鷹匡自身も一織は自分と「似ている」とはっきり述べていました。

このように、まるで一織くんの思考を先回りして見透かしているかのような発言も随所に見られます。ゼロという誰より愛したアイドルに"裏切られた"鷹匡と同じように、誰よりも支えたかった和泉三月というアイドルに"拒絶"されている一織くん。そして、2人はそれぞれ新たなアイドルと出会い、彼らを「スーパースターにする」ことを誓います。お分かりでしょうか?この対比もまた、九条天と七瀬陸の2人に集約されているわけです。アイドリッシュセブンの対比構造、ヤバい。

七瀬陸の訴求力

今、時代を蹂躙しているモンスター・七瀬陸の強みは、ずば抜けた歌唱力、そして圧倒的な訴求力です。この訴求力というのは、かつて日本を席巻した伝説のアイドル・ゼロと同じ特性ですね。一織くんが言うように、強い訴求力を持つ七瀬陸がゼロのようなスーパースターになることは、確約されたも同然でしょう。しかし、ここで気になるのが3部での鷹匡のセリフです。

あれは天まで届く巨人のふりをした積乱雲と同じなんだ。嵐を起こして、消え去っていく運命のものだよ。(中略)あの子は何も持たない。君のように、与える約束もない。千のように、無から生み出す歌もない。ゼロなのに、引力を持ってしまったんだ。(3部19章2話  引力)

このセリフ、ゼロも何も持たないのに引力を持ってしまったから大きくなりすぎた声に潰されてしまった、と言っているように聞こえます。だとしたら、七瀬陸を待ち受ける運命は、ゼロと同じ失踪なのでしょうか。ゼロに替わるアイドルとして、ゼロと同じ訴求力を持つ七瀬陸ではなく九条天を選んだのは、何も持たないアイドルはいつか消えてしまうと思っているからなのでしょうか。5部で描かれるゼロを待つことしかできないのですが、モヤッとしますね……

ただ、九条鷹匡もまた、訴求力の持ち主である、という見方もできます。天くんと理ちゃんは、彼の訴求力によって「九条さんの夢を叶えてあげたい」という願いを持っていると解釈すると、この見方は非常にしっくり来ます。また、若い頃の鷹匡は、「少し抜けたところのある、純朴な青年だった」らしいと天くんが言っています。つまり、九条鷹匡は一織だけでなく陸とも似たところがある、ということになるわけです。*1

九条鷹匡は敵キャラなのか

直近の更新(5部11、12章)を読んで、私は九条鷹匡もまた、アイドルを愛する人間だということを見せつけられたような気がしました。鷹匡がこれまで多くの不必要なトラブルや悲しみ、軋轢を生み出してきたことは間違いないし、彼に傷つけられた人を私たちはあまりにも多く知っています。しかし、彼の原動力は「もう一度アイドルに熱狂したい」であり、ゼロへの執着も愛ゆえのものであるわけです。今、アイドルに熱狂し傾倒する私たちは、アイドルを失ったときに鷹匡のようになってしまうかもしれない。「好き」の気持ちは、暴走すると恐ろしい。そういうことを伝えるためのキャラクターなのかもしれない、今はそんなふうに思っています。アイドリッシュセブンという物語のラスボスであり、我々と同じくアイドルのファンである九条鷹匡の妄執は、どうやって終わりを迎えるのでしょうか。

終わりに

脱線に脱線を重ねて話題のとっちらかった文章になってしまいました。すみません。読んでくださった方、ありがとうございます。

来月の5部更新、楽しみですね…………

 

 

 

 

*1  九条鷹匡と七瀬陸の相関についてはこちらのブログを参考にさせていただきました。ぜひご覧下さい。

【アイナナ】九条鷹匡&ゼロ考察 - 消えていく星の流線を